返品調整引当金(設定要件)

千葉県市原市姉ヶ崎の税理士関口です。

今日は、一般の事業会社にはあまりなじみのない「返品調整引当金」について書いていきたいと思います。

<返品調整引当金(設定要件)>

法人税法第五十三条に記載があります。

 内国法人で出版業その他の政令で定める事業(以下この条において「対象事業」という。)を営むもののうち、常時、その販売する当該対象事業に係る棚卸資産の大部分につき、当該販売の際の価額による買戻しに係る特約その他の政令で定める特約を結んでいるものが、当該棚卸資産の当該特約に基づく買戻しによる損失の見込額として、各事業年度(被合併法人の適格合併に該当しない合併の日の前日の属する事業年度及び残余財産の確定の日の属する事業年度を除く。)終了の時において損金経理により返品調整引当金勘定に繰り入れた金額については、当該繰り入れた金額のうち、最近における当該対象事業に係る棚卸資産の当該特約に基づく買戻しの実績を基礎として政令で定めるところにより計算した金額(第四項において「返品調整引当金繰入限度額」という。)に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
2  前項の規定は、確定申告書に返品調整引当金勘定に繰り入れた金額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り、適用する。
3  税務署長は、前項の記載がない確定申告書の提出があつた場合においても、その記載がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、第一項の規定を適用することができる。
第4項以下省略
 下記は「出版税務会計の要点2017年(平成29年)一般社団法人 日本書籍出版協会 」からの引用です。

 出版業界での取引の大部分は「返品条件付販売」(又は「買戻し条件付販売」)で出版社から取次会社を通して書店等で販売する方法を採っている。
出版社は、出版物を取次会社へ引き渡したとき、通常そのすべてを売上に計上している。
そのため、返品が事業年度をまたがってなされるときは、返品によって発生する損失についても、課税されるという不合理が生ずる。
税法は、販売方法上常に多量の返品が予測される事業に対し、その返品による損失の見込額として、損金経理により返品調整引当金勘定に繰り入れることを認めている。返品調整引当金は、負債性引当金である。

出版社から取次会社などへ引き渡されたときに売上計上(出荷基準)が普通です。
 「返品調整引当金」は負債性引当金です。負債性引当金とは、将来の支出(将来発生すると予想される費用)に備えるための引当金です。他には賞与引当金、退職給付引当金、修繕引当金等があります。
 ほぼ確実に返品がある期末直前売上の4割程度が売上計上され、利益部分に法人税が課税されることは、実務上弊害があるということなのでしょう。

下記は「日本雑誌協会 日本書籍出版協会50年史 」からの引用です。

 出版社は委託販売制度下において,買戻し条件付きで取次会社などに引渡(出荷)基準によって商品を売上げに計上している。したがって,期間損益計算にもとづく事業年度末では,翌期に返品が予想される未実現利益を計上する結果となり,費用収益対応の原則からも,その調整が求められた。
返品調整引当金は,①出版業,出版にかかる取次業などで,常時その販売する商品の大部分について,②販売先からの求めに応じ,その販売した商品を当初の販売価額によって無条件に買戻す特約があること,③販売先において,出版業者から商品の送付を受けた場合にその注文によるものかどうかを問わずこれを購入する特約があることが要件となっている。

法人税法施行令に対象事業の範囲等の記載があります。

(返品調整引当金勘定を設定することができる事業の範囲)
第九九条 法第五十三条第一項(返品調整引当金)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業とする。
一 出版業
二 出版に係る取次業
三 医薬品(医薬部外品を含む。)、農薬、化粧品、既製服、蓄音機用レコード、磁気音声再生機用レコード又はデジタル式の音声再生機用レコードの製造業
四 前号に規定する物品の卸売業
(返品調整引当金勘定の設定要件)
第一〇〇条 法第五十三条第一項(返品調整引当金)に規一定する政令で定める特約は、次に掲げる事項を内容とする特約とする。
一 法第五十三条第一項の内国法人において、販売先からの求めに応じ、その販売したたな卸資産を当初の販売価額によつて無条件に買い戻すこと。
二 販売先において、法第五十三条第一項の内国法人からたな卸資産の送付を受けた場合にその注文によるものかどうかを問わずこれを購入すること。

法人税基本通達11-3-1に記載があります。

(特約を結んでいる法人の範囲)

11-3-1の3 令第99条《返品調整引当金勘定を設定することができる事業の範囲》に掲げる事業(以下この節において「対象事業」という。)を営む法人が、その販売先との間に文書により令第100条《返品調整引当金勘定の設定要件》に掲げる事項を内容とする特約を結んでいない場合であっても、慣習によりその販売先との間に同条に掲げる事項につき特約があると認められるときは、当該法人は法第53条第1項《返品調整引当金》の特約を結んでいるものに該当するものとする。(昭49年直法2-71「20」、昭55年直法2-15「二十五」、平14年課法2-1「二十七」により改正)

今日は、このくらいで、また続きを書いていきたいと思います。

 

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返品債権特別勘定(その他)

千葉県市原市姉ヶ崎の税理士関口です。

「返品債権特別勘定」の続きです。

<返品債権特別勘定(その他)>

法人税基本通達9-6-6、9-6-7、11-3-8、11-2-21、11-2-22に記載があります。

(返品債権特別勘定の金額の益金算入)

9-6-6 返品債権特別勘定の金額は、その繰り入れた事業年度の翌事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、当該連結事業年度)の益金の額に算入する。(平10年課法2-7「十三」、平15年課法2-7「二十七」により改正)

洗替え処理をしなさい。という規定ですね。

 

(明細書の添付)

9-6-7 返品債権特別勘定への繰入れを行う場合には、その繰入れを行う事業年度の確定申告書に返品債権特別勘定の繰入額の計算に関する明細を記載した書類を添付しなければならないものとする。(平10年課法2-7「十三」により改正)

法人税の確定申告書に明細書を添付しなさい。という規定ですが、明細書の様式は特に定まっていないようです。

返品債権特別勘定のエクセルサンプル

 

(返品債権特別勘定を設けている場合の期末売掛金等)

11-3-8 法人が返品債権特別勘定を設けている場合には、令第101第1項第1号《売掛金基準》に規定する売掛金の帳簿価額には9-6-5(1)《返品債権特別勘定の繰入限度額》の雑誌の販売に係る売掛金の帳簿価額を、同項第2号《販売高基準》の対価の額には9-6-5(2)の雑誌の販売の対価の額を、それぞれ含めないことに留意する。(平10年課法2-7「十六」、平20年課法2-5「二十四」により改正)

二重利得の回避の規定です。返品調整引当金を計算する場合に、返品債権特別勘定に設定した金額を控除しなさい。という規定です。
もし、控除しないで計算しても良いとなると、返品債権特別勘定の計算に使った金額と返品調整引当金の計上に使う金額をダブル適用できて、その分税金が減ってしまうからです。

<参考>令第101第1項第1号
(返品記整引当金勘定への繰入限度額)
第一〇一条 法第五十三条第一項(返品調整引当金)に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、第九十九条各号(返品調整引当金勘定を設定することができる事業の範囲)に掲げる事業(以下この条及び次条において「対象事業」という。)の種類ごとに、次の各号に掲げる方法のうちいずれかの方法により計算した金額の合計額とする。
一 各事業年度終了の時における対象事業に係る売掛金(法第六十三条第六項(長期割賦販売等)に規定する長期割賦販売等に係る棚卸資産で、その収益の額及び費用の額につき同条第一項本文又は第二項本文の規定の適用を受けたものに係る売掛金を除く。)の帳簿価額の合計額に当該対象事業に係る棚卸資産(同条第六項に規定する長期割賦販売等に係る棚卸資産で、その収益の額及び費用の額につき同条第一項本文又は第二項本文の規定の適用を受けたものを除く。以下この条において同じ。)の返品率を乗じて計算した金額に、当該事業年度における当該対象事業に係る売買利益率を乗じて計算する方法
二 各事業年度終了の日以前二月間における対象事業に係る棚卸資産の販売の対価の額(同日以前二月以内に行われた適格分割又は適格現物出資により分割承継法人又は被現物出資法人に移転した対象事業に係るものを除く。)の合計額に当該対象事業に係る棚卸資産の返品率を乗じて計算した金額に、当該事業年度における当該対象事業に係る売買利益率を乗じて計算する方法

(返品債権特別勘定を設けている場合の売掛債権等の額)

11-2-21 出版業を営む法人が返品債権特別勘定を設けている場合の売掛債権等の金額は、当該事業年度終了の時における売掛債権等の金額から当該返品債権特別勘定の金額に相当する金額を控除した金額によることに留意する。(平10年課法2-7「十五」、平14年課法2-1「二十六」により改正)

二重利得の回避の規定です。返品債権特別勘定を設定していたら、貸倒引当金の計算をする場合の売掛債権等の金額から返品債権特別勘定を控除しなさい。という規定です。
もし、控除しないで計算しても良いとなると、評価性引当金の返品債権特別勘定の金額に、同じ評価性引当金の貸倒引当金を設定することができて、その分税金が減ってしまうからです。

 

(貸倒損失の範囲-返品債権特別勘定の繰入額等)

11-2-22 次に掲げるような金額は、令第96条第6項第2号イに規定する売掛債権等の貸倒れによる損失の額には含まれない。(昭54年直法2-31「六」により追加、昭59年直法2-3「七」、平10年課法2-7「十五」、平12年課法2-7「十八」、平14年課法2-1「二十六」、平23年課法2-17「二十四」、平24年課法2-17「二」により改正)

(1) 9-6-4《返品債権特別勘定の設定》により返品債権特別勘定に繰り入れた金額
(2) 外貨建ての債権の換算による損失の額
(3) 売掛債権等の貸倒れによる損失の額のうち保険金等により補填された部分の金額

もし、貸倒損失の金額に含まれるとすると、貸倒実績率が高くなり、貸倒引当金の計算上、多くの引当金が損金算入できることとなり、税金が減ってしまうからです。

 

(法人事業税における取扱い)

当該事業年度及び当該事業年度の前事業年度の確定した決算(仮決算による中間申告にあっては、当該事業年度開始の日から六月の期間に係る決算)に基づく貸借対照表(以下「貸借対照表」といいます。)に計上している総資産の帳簿価額の合計額(繰越欠損金、両建勘定、返品債権特別勘定など資産の帳簿価額に含まれないものを控除した額)を記載します。なお、税効果会計を採用している場合に計上される繰延税金資産勘定の金額は、総資産の帳簿価額の合計額に含めて計算します。

参考までに書きましたが・・・法人税別表8(1)の数値を参考に書いてくれと記載の手引き等に書いてあるので、そこを間違わなければ大丈夫ですね。ちなみに別表八(一)「受取配当等の益金不算入に関する明細書」記載の手引きにも、同様の注意書きがありました。(https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/hojin/tebiki2017/01.htm)

今度は、返品調整引当金について書いていきたいと思います。

 

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返品債権特別勘定(繰入限度額)

千葉県市原市姉ヶ崎の税理士関口です。

「返品債権特別勘定」の続きです。

<返品債権特別勘定(繰入限度額)>

法人税基本通達9-6-5に記載があります。

(返品債権特別勘定の繰入限度額)

9-6-5 返品債権特別勘定の繰入限度額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に掲げる金額とする。(平10年課法2-7「十三」により改正)

(1) 当該法人が返品調整引当金勘定への繰入限度額を令第101条第1項第1号《売掛金基準》の方法により計算している場合 当該事業年度終了の時における雑誌の販売に係る売掛金(当該事業年度終了の時の直前の発行日に係るものを除く。)の帳簿価額の合計額に同号に規定する返品率を乗じて計算した金額から店頭売れ残り品の当該事業年度終了の時における価額に相当する金額を控除した金額

(2) 当該法人が返品調整引当金勘定への繰入限度額を令第101条第1項第2号《販売高基準》の方法により計算している場合又は返品調整引当金勘定を設けていない場合 当該事業年度終了の日以前2月間における雑誌の販売の対価の額(当該事業年度終了の時の直前の発行日に係るものを除く。)の合計額に同号に規定する返品率を乗じて計算した金額から店頭売れ残り品の当該事業年度終了の時における価額に相当する金額を控除した金額

下記は「日本雑誌協会 日本書籍出版協会50年史 」からの引用です。

”繰入限度額の計算方法でみると,
A.売掛金基準 {(期末における雑誌売掛金残-最終号分売掛金残)×返品率}-{ }のスクラップ価額
B.販売高基準 {(期末前2か月間の雑誌販売高-最終号分販売高)×返品率}-{ }のスクラップ価額
となっており,期末時点での店頭にある雑誌のうち,その後返品されるであろう商品をスクラップ評価し,その差額を引き当てるという内容である。まさに,週刊誌などの定期刊行物の商品の性格を反映させたものといえる。”

ここで言っている【雑誌】とは、週刊、旬刊、月刊誌等のことです。当然、直接販売や定期購読の雑誌、電子雑誌は除かれます。雑誌に季刊誌、年間誌は含まれるのかは・・・まだ、調べきれていませんので引き続き調べていきます。

ただ、返品債権特別勘定の設定要件を考えると、次号が刊行された時点で陳腐化する雑誌を設定対象としているので、次号が刊行されるまで期間が長い、「季刊」や「年刊」は設定対象外なのかと思います。そっちは返品調整引当金で手当てする感じですね。

ちなみに、【旬刊】じゅんかんと読みます。10日ごとに刊行することです。
【季刊】1年に4回、3か月ごとに刊行

今日は、このくらいで、また続きを書いていきたいと思います。

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